2022年度 空気調和・衛生工学会近畿支部学術研究発表会奨励賞講評

学術研究発表部門:5

 

A-7 診察室における感染予防対策としての局所換気システムの性能評価に関する研究 (その5)各給気方式におけるトレーサーガスによる飛沫核感染リスク評価

 

 藤原碧海(大阪大学)  山中俊夫(大阪大学) 小林知広(大阪大学) 崔ナレ(大阪大 ) 小林典彰(大阪大学) 

吉原隼(大阪大学) 張靭(大阪大学)

 

審査評:本論文は、患者と医師が対面する診察室を対象に、両者間の上部に設置する局所排気装置の性能について、実験により検討したものである。室全体の給気方法、局所排気位置・風量をパラメータにし、トレーサーガス実験から排気捕集率・新規感染者増加率を求め、感染リスクの観点で局所排気条件に関する丁寧な考察が行われている。全面床吹出しと局所排気の有効性を確認した点で、有効な感染症対策が求められている社会背景にも合致しており、新規性・工学的有用性が認められる報告といえる。実験条件の詳細な記述に加え、複数の観点で結果を分かりやすく分析・整理されている点、発表のわかりやすさ、質疑応答の的確さも含めてアピール力が高いと評価できることから、奨励賞に値する論文と判定した。

 

A-26 置換換気のための空気清浄機能を有するポータブル冷房ユニットの開発研究(その2)実験による温度成層形成及び飛沫核除去効率の検討

 

小森美晴(大阪大学) 山中俊夫(大阪大学) 崔ナレ(大阪大学) 小林知広(大阪大学) 小林典彰(大阪大学)

ESSA Aya(大阪大学) 松井伸樹(ダイキン工業) 岡本哲 (ダイキン工業) 荒川武士(ダイキン工業)

矢本勇樹(ダイキン工業) 大高将悟 (ダイキン工業)

 

審査評:今後の感染症流行時に置換換気は有用と考えられるが、既存の技術の組合せによって、これまでより有効かつ効率的に置換換気を行うための技術提案の基礎研究として取り組まれており、非常に興味深い内容であった。また、テーマ設定のみならず、試作機を用いた緻密な実験と分析も見るべき点と言え、今後の続報にも大きな期待が寄せられたことも評価の一側面だった。わかりやすいプレゼンテーションと的確な質疑応答も含めて、奨励賞に値すると判定された。

 

A-36 複数開口を有する室を対象とした風の乱れによる換気効果に関する研究(その19)風洞実験による間仕切り壁が片側2開口時の換気量に及ぼす影響の検討 

 

佐野香之(大阪大学) 小林知広 (大阪大学) 山中俊夫(大阪大学) 小林典彰(大阪大学) 崔ナレ(大阪大学) 

蒋子韜(大阪大学) 豊澤恒太(大阪大学)

 

審査評:本研究は、乱れによる換気効果について、室内に間仕切り壁をもつ片側2開口建物を対象とした風洞実験によりPurging Flow RatePFR)を算出し、Air Flow RateAFR)との比較により換気効率を検討した研究である。建物模型を用いた精緻なトレーサガス実験により、風向と間仕切り開口の位置によって室内の換気経路が異なることで換気効率が変化することが示されている。実験条件の一般性に課題が残るものの、学術的貢献度が高く、研究内容がわかりやすくまとめられている点でアピール力が高く、奨励賞に値する論文と判定した。

 

 

A-42 領域分割法を用いたLESによる室内通風気流の非定常解析手法に関する研究(その6)風洞実験による風力と浮力が作用する場での室内気流及び換気量の測定

 

宮澤昇平(大阪大学) 小林知広(大阪大学)  山中俊夫(大阪大学)  小林典彰(大阪 大学)  崔ナレ(大阪大学)  松原暢(大阪大学)  蒋子韜(大阪大学)  丹原千里(大林組)

 

審査評:本研究ではLarge Eddy SimulationLES)を換気・通風分野に適応するための基礎的研究として、境界条件および検証用データの取得を目的とした風洞実験を行っている。特にPIV測定を用いることで、風力による換気駆動力が支配的な場合と、風力と浮力が逆向きの換気駆動力として同時に働く場合についての気流性状を明らかにしており、予測が複雑な非等温流れ場についての大変貴重な検証用データとなるであろう。また、大変分かり易く且つ魅力的なプレゼンテーションであり、十分に奨励賞に値する論文と判断する。

 

A-50 PCMによる手足冷却が生理量変化に与える影響評価

 

肥田弘明(大阪府立大学) 吉田篤正(早稲田大学) 木下進一(大阪公立大学)

 

審査評:本論文は、都市空間の暑熱化に対する適応策としてPhase-Change MaterialsPCM)による人体の局所冷却に着目し、その効果を人工気候室における被験者実験および人体熱モデルによって評価したものである。測定実験と数値実験を組み合わせて生理量変化のメカニズムを考察し、PCMによる冷却が高熱負荷環境下で有用となる可能性を示しており、高い学術性と工学的応用性が認められる。また、発表姿勢および質疑への応答からも、研究に対する発表者の深い理解が伺え、アピール力も高く評価されたことから、奨励賞に値する論文と判定した。

 

技術報告発表部門:2

 

B-3 社員寮における寝室内環境制御システムの睡眠への効果検証

 

小川裕子(竹中工務店) 越村翔(竹中工務店) 君塚尚也(竹中工務店) 堀翔太(ダイキン工業) 

安本千晶(ダイキン工業) 加藤隆史(大阪大学)

 

審査評:本研究は生産性向上と健康増進の観点から睡眠の質を向上させるため、適切な設備制御により最適な睡眠環境の提供を目指す睡眠特化室(ウェルネスルーム, WR)を提案し、実在建物において評価を行ったものである。検証期間に限りのある実建物のプロジェクトベースでありながら、モックアップの天蓋膜形状や膜の傾斜角を変更して多くの条件で検討を行った上で、詳細な環境測定と被験者の睡眠評価の両面から評価を行うことでWRの効果検証が行われている。当該論文では技術的に優れた提案を学術的に適切な手順で検証しており、その丁寧なプレゼンテーションと合わせて高く評価された。このため、奨励賞に相応しい論文と判定した。

 

B-5 某イノベーションオフィスにおける環境設備計画

 

三木僚子(竹中工務店) 増田恭大(竹中工務店))

 

審査評:本報は、執務者が仕事内容に応じて最適な場所を選択して執務することで知的生産性の向上を図るABW(Activity Based Working)の考え方を取り入れた建物の計画概要と設備計画についての報告である。執務者が好みの場所を選択できるような「不均質な快適空間づくり」を目指し、周期的に風量・温度を変化させる気流感変動空調システムなど、各部にABWの考え方を反映した設備を導入しつつ、全体としてはNearly ZEBの省エネルギー性を確保した特色ある設備計画が示されたこと、さらに聞き手の興味を惹きつけるプレゼンテーションとしてまとめられた点が高く評価された。


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