2023年度 空気調和・衛生工学会近畿支部学術研究発表会奨励賞講評

学術研究発表部門:6編

A-11 省エネ性と快適性を両立した執務室の自然換気口制御に関する研究(その3)有孔ダクト天井方式における自然換気量に関する上限値制御の必要性検討

 

○丹羽剣竜(大阪大学) 小林知広(大阪大学) 山中俊夫(大阪大学) 山澤春菜(大阪大学)

 桃井良尚(福井大学) 田中宏明(日建設計) 藤井拓郎(日建設計) 守雅俊(日建設計)

 

審査評:本論文は、外気流入条件によっては室内の熱的快適性が低下する懸念がある自然換気において、有孔ダクト天井方式に着目し、天井スリット開口、ペリカウンター方式との比較を、CFD 解析により快適性評価を行ったものである。室内温度分布に加えてADPI指標に基づき、有孔ダクト天井方式の良さを分かりやすく示している。有孔ダクト天井方式以外では風量増加に伴う快適性低下傾向を示すとともに、ADPIから上限換気回数を求める手法を提案している点も評価できる。丁寧な分析・考察がされている点、発表のわかりやすさ、質疑応答の的確さ等、評価できる点が多いことから、奨励賞に値する論文と判定した。

 

A-27 自治体脱炭素支援のためのエネルギー需要推計モデルの開発

 

○重松朋生(大阪大学) 山口容平(大阪大学) 芳澤信哉(大阪大学) 内田英明(大阪大学) 太田豊(大阪大学)

下田吉之(大阪大学) 池本佳史(関西電力送配電) 南雅弘(関西電力送配電) 竹田圭一(関西電力送配電) 

 

審査評:自治体のエネルギー使用実態を正確に把握するため地域の特性を考慮したモデルを開発し、推計値と配電線の実測値の比較を行い、概ね良好な結果を得られている。開発したモデルを用いて将来推計を行うことで地域脱炭素に向けた対策の立案やロードマップにおける達成度の確認もでき有用と感じた。プレゼンテーション、質疑応答における受け答えについても秀逸で高く評価できる。

 

A-36 水族館内の飼育用海水槽で発生する海塩粒子の室内における拡散挙動数値流体解析による海塩粒子の行方の推定

 

○宇佐美恒(神戸大学) 高田暁(神戸大学)

 

審査評:本研究では海水槽からの海塩粒子について換気により除去する方法を検討するために、CFD解析を用いた粒子挙動推定が成されている。特に換気による除去割合、配管等への付着割合、海水面への沈降割合等を、海塩粒子の行方を粒子径の違いによる影響まで含めて詳細に分析されており、金属面等の錆被害対策につながる貴重な研究であると考える。また、プレゼンテーションは適切な時間配分の上、明快かつ積極的な姿勢あり、十分に奨励賞に値する論文と判断する。

 

A-44 領域分割法を用いたLESによる室内通風気流の非定常解析手法に関する研究 (その10)流入風向に応じた流量係数補正を組み込んだ非等温条件での精度検証

 

○松原暢(大阪大学) 小林知広(大阪大学) 山中俊夫(大阪大学) 山澤春菜(大阪大学) 丹原千里(大林組)

 

審査評:本研究は、開口部のある建物屋内の気流解析においてLESの計算負荷を緩和するため、建物内外で計算領域を分割して取り扱う領域分割法を提案し、その具体的適応方法を検討している。すなわち、シールドモデルを用いた屋外モデルの計算結果から室内モデルの境界条件を設定する際の設定方法が解析精度に及ぼす影響を評価している。本研究は精度を確保しつつ負荷を削減する方法についての知見を提供し、実務でのLES利用に役立つであろう。また、発表は明快でわかりやすく、その点でも奨励賞に値すると判定された。

 

A-53 断熱ボードの製造に関するCO2排出量の算出および 工法の異なる木造戸建住戸のLCCO2の比較

 

○新城有布菜(立命館大学) 近本智行(立命館大学) 土井脩史(大阪公立大学) 

 

審査評:本研究は、異なる断熱工法の小規模な住宅モデルの LCCO2を算出し、比較することで、CO2 排出量の削減効果のある工法を明らかにすることを目的としたものである。算出に必要となる断熱ボードのCO2排出量について、製造や建設の現場での調査や聞き取りを独自に行うなどして情報収集を行っており、建築資材の物的な消費だけでなく、施工・解体を含めた真のLCCO2の算定方法の確立に向けた努力がなされており、今後の発展が期待される。発表の姿勢や質疑への応答からも、研究に対する発表者の深い理解が伺え、アピール力も高く評価されたことから、奨励賞にふさわしい研究と判断された。

 

A-82 知覚空気汚染質に対する嗅覚の順応・回復過程に関する基礎的研究 (その1)体臭に対する嗅覚順応の変化特性

 

○福本柊一郎(大阪大学) 川口由莉(大阪大学) 山中俊夫(大阪大学) 崔ナレ(東洋大学) 山澤春菜(大阪大学)

竹村明久(摂南大学) 小林知広(大阪大学)

 

審査評:体臭に対する長時間曝露時の嗅覚応答特性に着目し、室内CO2濃度を2650ppmと5000ppmに設定して評価実験をおこない、1)臭気強度の減衰には減衰型、不変型、変動型、中間型があり、CO2濃度によって型の出現状況が異なる、2)臭気強度、臭気の不快度、臭気の非容認率はCO2濃度とあまり関係がない、3)時間の経過とともに、臭気強度や非容認率が中立に近づく、4)順応過程より回復過程のほうが評価の変化が大きい、などのことを明らかにした。省エネルギーを考慮した適切な必要換気量の設定に向けて新たな知見を提供する研究として明瞭かつ簡潔にまとめられており、高く評価できる。

 

技術報告発表部門:1編

B-4 感染診察室・病室における気流シミュレーションによる気流性状・換気効率の確認

 

○村上奈々子(竹中工務店) 村上奈々子(株式会社竹中工務店) 横山喜宜(竹中工務店) 萩平隆司(竹中工務店)

 

審査評:本研究は、コロナ禍において重要性が再確認された感染病室・感染診療室における飛沫の拡散について数値流体力学に基づいて検討したものである。実際に建設中の病院を模擬した解析空間において、換気量及び室の構成要素の仕様・配置を変化させた検討が行われた。その結果を条件ごとに比較・整理することで、各要素が飛沫拡散に与える影響に関する知見を考察している。検討は学術的に適切な手法が取られ、条件ごとに非常に丁寧な考察がなされている。わかりやすいプレゼンテーションと的確な質疑応答も併せて評価され、奨励賞に値する発表と判定された。

 


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