2024年度 空気調和・衛生工学会近畿支部学術研究発表会奨励賞講評

学術研究発表部門:6編

 

A-1 Impinging Jet Ventilation 方式の室内環境予測に関する研究
(その14)高負荷発熱体設置時におけるIJV 吹出口形状が室内温度・汚染質濃度分布に及ぼす影響に関する実験室実験

〇李善根(大阪大学) 小林知広(大阪大学) 山澤春菜(大阪大学) 喜田健太郎(大阪大学大学院)


審査評:本研究ではIJV方式で置換換気を行う際に、給気口形状が室内温度分布や濃度分布に与える影響につい
て、実大実験により明らかにしている。室の温度・濃度が十分に定常といえる状況での測定とした上で、吹き
出し口のアスペクト比の変化が、温度・濃度の分布や境界面の高さにどの程度影響を及ぼすかについて、給気
口からの距離や吹き出し風量の大小等をもとに分析が成されており、今後の研究に続く方針を定めている。ま
た、プレゼンテーションが明快に成されており、質疑応答についても積極的な姿勢が伺えた。以上より奨励賞
に十分に値する発表であると判断する。


A-8 トレーサガス法を用いたクリーンルームにおける換気効率測定法に関する研究(その1)粉体及びトレーサガスを用いた局所平均空気齢の測定
〇木下陽太(大阪大学) 小林知広(大阪大学) 山澤春菜(大阪大学) 佐々木涼麻(大阪大学)
土屋茂樹(三機工業) 佐々木賢知(三機工業)


審査評:クリーンルームでは、高い換気効率が要求され、測定による換気効率評価が重要となる。本研究は、
従来測定による換気効率評価が難しいとされる、外気導入と再循環を有するクリーンルームを対象として、取
り扱いの容易なトレーサーガスを用いた濃度計測とJIS 粉体を用いる場合の換気効率測定手法について検討をし
た実験的研究である。①粉体によるステップアップ法、②SF6 を用いたパルス法及び③CO2 を用いたパルス応答
理論に基づくステップアップ法の3通りの手法により局所平均空気齢を導出し、それらの差異の原因について考
察している。学術的にかつ実務的にも意義のある研究であり、発表も優れており、奨励賞に値する優れた論文
と評価する。


A-14 Fluidic oscillator を利用した周期変動吹出口に関する研究
(その4)LES による風速分布及び変動特性の分析
〇酒井颯摩(大阪大学) 小林知広(大阪大学) 山澤春菜(大阪大学) 蔣子韜(新潟工科大学) 中川虎太郎(大阪
大学)


審査評:本研究はFluidic oscillator(FO)機構を用いた空調吹き出し気流の周期変動について、測定実験を
ベースにLESシミュレーションでの再現および装置形状影響の検討を行った研究である。シミュレーションの妥
当性は先行する測定実験結果との比較により検証された。LES を用いた数値解析によりFO により形成された気
流場の詳細な時間変動が明らかになり、装置形状との関係が検討された。本研究には高い独創性と発表のわか
りやすさが認められ、奨励賞にふさわしい研究である。


A-28 手動開閉窓による自然換気を行うABW オフィスにおける環境選択に関する研究
(その2)執務者アンケートによる室内温熱環境の評価

〇小椋梨音(大阪大学) 小林知広(大阪大学) 山澤春菜(大阪大学) 山中俊夫(大阪大学)
田中宏昌(日建設計) 田辺慎吾(日建設計) 五明遼平(日建設計) 松﨑眞子(日建設計)


審査評:本論文は、ABW を採用した事務所の実使用下において、自然換気と空調を併用した際の室内環境測定及
び執務者を対象としたアンケート調査を実施し、環境選択性に関する検討を行ったものである。回答時曝露温
度を独立変数、温冷感申告を従属変数とした線形回帰式から個人の熱的中立温度を算出し、熱的中立域の幅に
は個人差はあるが、熱的中立温度に対して±1℃程度の範囲が熱的中立域であることを示しており、自然換気を
採用する際に非常に有益な研究となりうると評価できる。丁寧な分析・考察がなされている点や発表のわかり
やすさだけでなく、アンケート調査に対する深い知見を有していることも評価でき、奨励賞に値する論文と判
定した。


A-37 周期的な室温変動と心理量・生理量の応答性に関する研究
〇杉森桃香(立命館大学) 近本智行(立命館大学) 田中哲平(立命館大学) 古藤若菜(ダイキン工業)


審査評:本研究は、周期的な室温変動に対する人の心理的・生理的応答の時間的遅れを明らかにすることを目
的とした実験的研究である。温冷感や快適感申告、皮膚温度に加え、快適感に影響を及ぼす発汗についても詳
細に分析しており、汗の拍出頻度や発汗感の個人差や周期による応答性の違いを丁寧に分析している点が高く
評価できる。発表も明快であり、質疑においても積極的に対応していたことから、奨励賞にふさわしいと判断
する。


A-60 中央熱源方式の大学施設における空調・熱源エネルギー消費量に与える影響一人当たりのCO2 排出
量および省エネルギー対策の提案

〇胸永拓馬(立命館大学大学院) 近本智行(立命館大学)


審査評:大学施設における省エネルギー対策をテーマとしている。個の建物を視点とした研究ではなく、大学
キャンパスに滞在する人の行動に着目しているところが興味深い。キャンパス内の複数建物のデータを整理し、
回帰分析等による綿密な研究活動によって一人当たりのCO2排出量予測モデルの作成を成し遂げている。データ
分析結果からその要因を探り、そして各建物の運用時間等の状況によって滞在者の場所選択等の行動変容によ
る省エネルギーの可能性を見出している。プレゼンテーションにおいては質疑応答も含めて的確な説明であっ
た。よって、発表者の研究姿勢および論文は奨励賞に値するものと判定する。


技術報告発表部門:1編


B-3 風力重力併用型の自然換気システムを有する中層事務所の自然換気性能に関する研究秋季実測調査に
基づく自然換気効果検証

〇持留崇志(竹中工務店)


審査評: 本研究は,自然換気システムを導入した実建物を対象に,建設前に実施したCFD による自然換気量の
解析結果と,竣工後に実施した換気量や室内温度の実測結果を示し,執務者に対する室内温熱環境満足度のア
ンケート調査によって自然換気の有効性について分析している。竣工後の実測調査と設計段階でのシミュレー
ション結果との比較により,設計段階での自然換気効果の検証を行っている点が高く評価できる。わかりやす
いプレゼンテーションと的確な質疑応答も併せて評価され,奨励賞に値する発表と判定した。


公益社団法人 空気調和・衛生工学会 近畿支部
〒559-0034 大阪市住之江区南港北2-1-10 ATC/ITM棟11F  TEL:(06)6612-8857  E-mail:office@kinki-shasej.org